両生類誌36号に掲載された報文で、「増補新版 北海道爬虫類・両生類ハンディ図鑑」の内容についての記述がありましたので、著者として根拠を補足しておきます。
アズマヒキガエルは本州に広く分布しているので、当然本州のカエルやサンショウウオも「毒オタマジャクシ」の影響を受けるに違いない。この疑問については「北海道爬虫類・両生類ハンディ図鑑」(徳田,2022)に興味深い記述がある。北海道の在来種はアズマヒキガエルの幼生の毒によって死ぬが、本州のカエルやサンショウウオの幼生は毒に対する耐性があるので「毒オタマジャクシ」を食べても死なないというのだ。少々話がうますぎるのではないか、と思えないこともないが、日本の自然は意外に単純で、都合よくできているということか。
東城庸介.2024.北海道におけるアズマヒキガエルの大規模な駆除について思うこと.両生類誌36.7-13.
引用は11ページから
増補新版の北海道爬虫類・両生類ハンディ図鑑に記述のある部分の根拠はまず、こちらの論文から。
Foraging traits of native predators determine their vulnerability to a toxic alien prey
Evangelia Kazila, Osamu Kishida
この論文では、北海道の国内外来種であるアズマヒキガエルが在来の両生類(エゾアカガエルとエゾサンショウウオの幼生)に与える影響を調べています。実験の結果から、アズマヒキガエル幼生が在来種(エゾアカガエルとエゾサンショウウオ)の幼生に捕食されると、毒性により捕食した在来種を高い確率で中毒死させることが確かめられています。またエゾアカガエルは毒耐性が低く、さらにヒキガエル幼生を複数の個体で分け合って餌としたり,中毒死した在来種の死骸を食べても中毒死してしまうことがわかってきました。これにより,エゾサンショウウオ幼生よりもエゾアカガエル幼生の方がアズマヒキガエルの影響を強く受けることが示唆されています。
一方、こちらの研究では、
Comparison of susceptibility to a toxic alien toad (Bufo japonicus formosus) between predators in its native and invaded ranges
Narumi Oyake, Nayuta Sasaki, Aya Yamaguchi, Hiroyuki Fujita, Masataka Tagami, Koki Ikeya, Masaki Takagi, Makoto Kobayashi, Harue Abe, Osamu Kishida
ヒキガエルの幼生を食べた後のエゾアカガエルの死亡率はすべての個体群でほぼ100%であり、エゾサンショウウオの死亡率は個体群によって14~90%だった。一方、ヤマアカガエルとクロサンショウウオの死亡率は個体群に関係なくほぼ0%であった。
となっています。
また、
木村和未・木村幸子・徳田龍弘.2021.トウホクサンショウウオ幼生がアズマヒキガエル幼生を捕食することで起こる影響について.北海道爬虫両棲類研究報告008.8-10.
では、アズマヒキガエルの幼生をトウホクサンショウウオの幼生に給餌したが、毒によるトウホクサンショウウオの斃死は確認されていない。
この辺りを根拠として、図鑑に以下の記述をしております。
増補新版 北海道爬虫類・両棲類ハンディ図鑑
P93、アズマヒキガエル、【毒】より
幼生や卵の一部にも毒があり、これらをかじった在来種のエゾアカガエルやエゾサンショウウオの幼生が死亡する。そして毒によって死んだエゾアカガエルやエゾサンショウウオの幼生の死骸を食べるとその幼生も死亡するという、負の連鎖が起こることがある。アズマヒキガエルが在来である地域(道外)に住むヤマアカガエル、クロサンショウウオやトウホクサンショウウオでは耐性があり、食べても死亡しないことことが 分かってきている。
文字数が多くなるため、図鑑自体には具体的な引用ができておりませんが、記述につきましては、論拠は以上のようなものとなっておりますことを補足致します。