Off guard


Ursus arctos lasiotus
Brown bear
羆(ヒグマ)

Photograph by Baikada (ばいかだ)
*CANON EOS 7D*

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中都市を結ぶ峠を車で走行中、道の脇に水たまりを見つけた。オタマジャクシや、エゾサンショウウオの幼生の様子が気になった。道路脇だったので、完全に油断して、何も持たずに車を降りた。日当たりの良い場所のせいか、両生類の幼生は全くいなかった。

道路脇から道路へ上がると、対向車線側に黒い塊が見えて凍りついた。

せいぜい50kg程度しかない、ヒグマの幼獣が
道路で草むらをかき分けて餌を探しているようだった。

私の方をほとんど気にすることもなく、
コロコロした様子は非常に可愛らしい。

成獣の風体を知っているからこそ、
この小さな体は可愛らしく見えてしまうように感じる。

頭ではそんなことを考えているのに、
体は凍りついたまま、車に乗ることができない。

子グマの背後で別の足音が聞こえている。
ササヤブを踏みしめる音。大きな気配。

姿は見えないが、子グマの近くには母グマがいると考えるほうが自然。

子グマと自分の距離は最短時で5~6mだったと思う。

子グマは脅威ではないが、背後の大きな脅威は
今までフィールドをしてきた中で、1,2を争うとても危険な状況。

助手席から車に飛び乗ってもエンジンをかけて発車するまで数秒かかる。
しかも運転席側の窓は完全に開いていて、
そこからヒグマパンチを喰らえば、タダじゃすまない。

車に乗るために、ドアを開ける音に子グマが驚いたら。
母グマが過剰に反応して車に向かってきたら。


Ursus arctos lasiotus
Brown bear
羆(ヒグマ)

Photograph by Baikada (ばいかだ)
*CANON EOS 7D*

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そんな時に、車に乗りこむ大きなきっかけが。
対向車線にバイクがやってきた。

バイクはたぶん、クマを見かけて、
途中からスピードを上げて一気に走り去った。

子グマは驚いて転がるように道路脇に身を潜めたので、
そのスキに、車に乗って窓を閉めてエンジンをかけた。

ここまで行くと、かなり気持ちに余裕が出た。

しかし、また子グマは道路脇に出てきた。

再びササヤブの大きな存在も動く気配だったので、
100mmマクロレンズで写真を逃げうちにしました。
(レンズ付け替える余裕はなかった)
シャッター音をたてるのも怖かったくらい。

そのまま駆け抜けて逃げたんだけど、
クラクションとか鳴らしながら去ればよかった。
車やバイクをあまり恐れずに道路に出てくるクマは
人にとっても、クマ自身にとってもいい結果を残すとは思えない。

子グマを前に立ち尽くしている自分は臆病者だし、
笑われるかもしれない。

でも、怖くあるべき存在に対して、怖いと思わなくなったとき、
あっけなく人は死ぬんだ。

強がったりとか、可愛いとか、油断とか。
人間の思考には動物との距離感を見誤る要素がたくさんあるんだ。

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